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2006-11-28 Tue 20:29
近未来SF小説
(ブログ小説で見つけた近未来小説、http://hanaiyosuke.jugem.jp/サイトより転載) 駅で電車が止まり、扉が開くと、ときどき新しい蛾が車内に入ってきた。 蛾たちは、梢子をからかうように、近くをパタパタ飛び回った。梢子が悲鳴をあげるたびにふり向いていた大学生たちも、しだいに、こちらを気にしなくなった。 「もう誰もこっちを見なくなった」 「私の悲鳴に慣れたのかしら」 「おまえも蛾になれろよ」 「絶対にムリ」 「もし、俺が蛾だったら?」 「ごめえん。絶対につきあえない。燐粉のあのもさっとした感じがだめなの」 「俺が蛾だったら、怒るぜ。何もしてねえだろうって」 「なんと言われても絶対にだめなのお」 多摩川が近くに見えてきた。電車が奥多摩駅についた。大学生たちもみな、降りた。 外に出るとセミの鳴声が一斉に聞こえた。空にはうっすらと雲がかかっている。 ホームのところどころに、小さな蛾がいた。蛾の大きさによってその半径は変わるが、梢子は、がんばっても一メートル以内には近づけないようだ。 「キャンプできんのか?」 「大丈夫よ。屋内はだめなの。外なら平気」 「逃げ回れるからだろ」 「そう」 二人は、駅前のスーパーで昼ごはんの食材を買うことにした。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 17:33 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.26 Sunday ワンス・イン・ア・ホワイル12 author : hanaiyosuke 電車が青梅駅についた。ここで、奥多摩駅行きに乗りかえる。 電車を降りると、ホームの反対側で、奥多摩行きの電車が待っていた。 発車のアナウンスが聞こえた。 和樹は梢子の手を取って電車に飛び乗った。 車内はナップザックを背負った中年女性のグループと、大学生くらいのグループが乗っていた。ふたりを入れても十四、五人くらいしかこの車両には乗っていない。 乗客たちは、ほとんど御嶽駅で降りてしまった。車両には、大学生のグループとふたりだけになった。 大学生たちは、男二人、女三人だ。男同士、女同士で固まっているのだが、みな、頬がゆるんだ顔で、語尾をのばした甘ったるい声でしゃべっている。 奥多摩駅につく間、梢子と色々な話をした。 和樹が話していても、梢子は別の方向をじっとにらんでいる。たまに、視線が動き、目を見開いて、悲鳴をあげる。 「あの蛾がこっちに来たら、体をはってやっつけてね」 梢子が両手で和樹の腕をつかんで言う。 「もし、俺が梢子のように蛾からにげまわったら、みそこなうか?」 「うん、確実にね」 言葉どおり、確信を持った目で梢子は和樹をにらんだ。車窓からは、木々や草むら、遠くに山と川が見えるようになった。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 13:46 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.25 Saturday ワンス・イン・ア・ホワイル11 author : hanaiyosuke 和樹は、職場で起こったできごとを頭に思い浮かべ、順序立てて、論理的に説明した。しゃべっているうちに、ときどき、のどがつまって声がかすれることがあった。 牧野は、じっと和樹を見つめて、あいづちをうつ。目と仕草から限りない優しさが伝わってきた。 全部、しゃべってしまうとだいぶすっきりした。牧野は、和樹がしゃべったことを確認するとともに、それ以外のことも色々と聞き出した。 仕事の愚痴に近い話を、牧野はしんぼう強く聞いた。 「お話はよく分かりました。このあと、先生が診断してくださいますので、しばらくお待ちください。おつかれさまでした」 和樹は、礼を言って部屋を出た。 待合室で待っていると、牧野がやってきて、診察は二時ごろになりそうだと言った。 和樹は、病院の外に出た。顔、首、腕にあたる陽がじりじりと肌をやく。 自動販売機でミネラルウォーターを買い、公園のベンチに横たわった。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 18:07 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.24 Friday ワンス・イン・ア・ホワイル10 author : hanaiyosuke ジャズバーから帰ると、和樹は千葉大の大学病院のホームページを検索した。初診の手続き方法を調べ、布団にたおれこんだ。 朝六時に起きた。電車とバスに乗り、大学病院に着いた。 受付で書類の記入をする。精神科と書くとき胸がちくっと痛んだ。受付の係が、精神科への行き方をなにげない顔で教えてくれた。 地下の、つきあたりに精神科はあった。そこにつくまで人の目が気になった。 受付で初診票を渡すと、引き換えにアンケートを渡された。 たくさんの患者がいた。みんな普通の顔をしている。和樹は、アンケートの記入をした。最後に性欲についての質問があった。ある、に丸をして、受付にアンケートを戻した。 しばらくすると、白衣を着た若い女に名前を呼ばれた。大学のインターンだろうか。名札に牧野と書いてあった。 「こちらへ、どうぞ」 牧野は奥の通路に入り、分厚い、重そうな扉を開けて、入ってという仕草をした。 和樹は、中にはいった。録音スタジオにあるみたいな分厚い扉だった。 部屋の中は、しんとしていた。 牧野は、和樹をパイプイスに座らせると、しばらくアンケートに目を通していた。 和樹は、牧野を観察した。 全体的に小作りで、線が細い。バランスが取れているので、スタイルがよく見える。小さいがきれいな感じのひとだ。 「アンケート拝見しました。職場での人間関係が問題のようですね。よろしければ、詳しくお聞かせ願えますか」 胸に染みとおるような声で、牧野は言った。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 17:52 | comments(0) | trackbacks(1) | 2006.11.23 Thursday ワンス・イン・ア・ホワイル9 author : hanaiyosuke 梢子はまだ話している。和樹はひきつった笑顔で、話を聞いた。 「ねえ、これなに?」 和樹が手に持っていたマットを指差して、梢子が言った。 「梢子用のベッドだ」 「体の下にひくのね?」 「ああ。地面の凸凹を感じないですむのと、防寒のためだ」 「ありがとう」 梢子は、和樹からマットを取り上げると胸に抱いた。 「俺が持つって」 「いいの。そのザックだって重いでしょ」 「すきにしな」 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 21:46 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.22 Wednesday ワンス・イン・ア・ホワイル8 author : hanaiyosuke 和樹は、家から歩いて三分のジャズバーに 行った。客は、だれもいなかった。 カウンターとテーブル席に十人も座ればいっぱいの店内で、マスターが掃除機をかけていた。 「いらっしゃい」 白髪頭を短くかったマスターは、ゆっくりとした動作で掃除機をしまうと、カウンターに立った。 「なににしましょう」 「ビールと、なにか威勢のいいジャズをかけてください」 マスターは、大きな目をさらに見開き、肩をすくめた。 こまったときにする仕草だ。 テーブルの上にコースターとグラスが置かれた。マスターが壜のビールをついでくれる。 「久しぶりにアート・ブレイキーをかけますか? お好きでしたよね」 「おねがいします」 「バートランドの夜です」 かん高い、ピー・ウィー・マーケットの声。 そして、大音量のスプリット・キックが、スピーカーから飛びだした。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 09:47 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.21 Tuesday ワンス・イン・ア・ホワイル7 author : hanaiyosuke 次の日は、もっとひどかった。 身におぼえのないことを持ち出して和樹になんくせをつけてくる。 四十半ばの同僚が、部長に月極めの経費のチェックを受けていた。部長がぶつくさ言い始めたのが聞こえた。 いやな習性だが、自分以外の者が怒られているのを聞くと、少し気分が落ちつく。 「駅からはどうやって行ったの?」 「歩いて行きましたけど」 「駄目ねえ、どうして巡回バスを使わなかったの?」 どうやら、同僚は交通費のことで突っ込まれているようだった。 「バスが出ているって知らなかったもので」 そこで同僚は、ははは、と笑い角刈りの頭をボリボリとかいた。 「それは、杉山君が悪いんだわ。谷さんが未来館に行くのを知ってて教えないんだから」 そんなこと、初めて聞いた。 同僚は、ははは、と笑っていた。 吐き気がした。腕の震えがとまらなかった。のどが渇いて仕方なかった。心臓が聞こえるくらいの音を立てている。息が苦しかった。胸の中で和樹のなにかが叫びつづけていた。 部長をぶん殴りたかった。 和樹は、机の中を整理して、私物をバッグに放り込み、オフィスを出た。 会社にはそれから行っていない。 和樹が七年間の社会人経験で学んだことが、一つあった。知らないうちに部長から吸収していたことだ。おかげで、和樹は社内の資格試験もとんとん拍子にあがることができたし、仕事の実績をあげることもできた。 この世で成功するための真理だ。 情ではなく、効率を優先すること。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 16:40 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.20 Monday ワンス・イン・ア・ホワイル6 author : hanaiyosuke ある日、部長が和樹に絵本作家の葬式に参列するように言った。以前、こども絵画展で審査員をつとめてくれた有名な絵本作家だ。 次の日、和樹は都内の葬式に参列した。絵本作家の友人たちが三人、弔辞を述べた。 みな、作家と同年代の白髪頭だった。さばさばしつつ、愛情のこもった弔辞が心にのこっている。 焼香を終え、駅でコロッケそばを食べて会社に行った。 部長に葬式の報告をすると、何人くらいきていたのか、と聞かれた。 二百人くらい、と答えた。あら、意外と少ないのねえ、と部長は言った。 和樹の口がひんまがった。 「ところで、杉山くん、数珠はもっていったの?」 部長は、和樹が自分の席につくのを見計らったように言った。 「いえ、持ってなかったので」 部長の目が獲物を駆る肉食獣のように光った。 「どうして持っていかないの! 常識じゃない」 「そういえば、女の人たちは、持っていましたね」 和樹はそういって、ははは、と笑った。 この部署の処世術として学んだものだ。 部長は相手を人だと思っていない。言葉の力も知らない。自分の言葉が刃となり人を切り刻んでいることを知らない。 ダメージを受けないためには、言葉をそのまま受け止めてはいけない。笑ってごまかす。 相手をけん制し、自分をごまかし、ダメージを受けていないと信じこむのだ。 「男の人だってもってるわよ。なんで、もって行かなかったの」 昨日言えよ、という言葉を飲み込んだ。 「まったく、これは、杉本くんの親が悪いんだわ」 和樹は、ははは、と笑ってごまかした。最後の一言が、和樹はかわしたと思っていたのだが、胸の奥ふかくに突き刺さった。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 09:37 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.19 Sunday ワンス・イン・ア・ホワイル5 author : hanaiyosuke 和樹は、大企業の社会貢献部に勤めていた。グループ企業の利益で、発展途上国に学校を建てたり、災害時緊急募金をしたり、日本のこどもたちを環境先進国につれて行ったりするのが仕事だ。 部長は五十過ぎの女性だった。感情にまかせて部下を怒鳴りつけ、仕事とは関係ないところまで追いつめるので、同僚がつぎつぎにうつ病になり転勤していった。 和樹も転勤して半年間は、たっぷりといじめられたが、仕事が好きだったのと、部長のやり方にむりやり自分を合わせることで、三年間つづいた。 関係がおかしくなってきたのは、半年前からだった。 指示された通りの仕事をしても、何を考えているんだと、みなの前で罵倒される。 お前のせいで、取引先に迷惑をかける、とも言われた。気にしないようにしてきたが、和樹の顔はどんどん歪んでいった。 半年間、和樹は、耐えた。 彼女はスケープゴートをつくることを好んだ。一度こいつと決めたら、その人の神経が参ってしまうまで、つつき続けるのだ。 そうやってつぶれていく人を和樹は、ずっと見ていた。自分にも番がまわってきたと思うと、仕事中とてものどが渇いた。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 12:01 | comments(0) | trackbacks(0) | 2006.11.18 Saturday ワンス・イン・ア・ホワイル4 author : hanaiyosuke 「梢子は、最近どうだ?」 「私? まあまあ。でも新しい患者さんと気が合わなくってちょっとユーウツ」 「おまえにもそんなことあるんだ」 「あるよお、和樹が知らないだけ」 「一緒のときはねこかぶってやがんな」 「そう、アザラシだけじゃないのよ」 梢子は仕事のグチを言いはじめた。和樹はちゃんと耳を傾けるが、あまり頭の中に入ってこない。梢子のことを好きじゃなければ、絶対に聞かない話だ。あいづちをうつことに集中し、梢子のまっすぐな鼻すじを見つめる。 「ねえ、ちゃんと聞いてる?」 梢子は和樹の膝を叩き、口をへの字にした。 「聞いてるって」 また話がはじまった。口の端がひくひくとひきつる。胸をだらだらと汗が流れおちた。 和樹は、二ヶ月前から行ってない会社のことを思い出していた。 | ワンス・イン・ア・ホワイル | 17:34 | comments(0) | trackbacks(0) | Copyright (C) 2006 JUGEM Some Rights Reserved.
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2006-11-13 Mon 22:10
色々なもの書いていきたいです、純文学やSFや官能小説など。本格的に来年は頑張るぞ!!!
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2006-11-13 Mon 22:10
色々なもの書いていきたいです、純文学やSFや官能小説など。本格的に来年は頑張るぞ!!!
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